儚く消えゆく幻想とピクニックバスケット

短編小説
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- 儚く消えゆく幻想とピクニックバスケット -

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 夢を見た。月上さんと一緒になる夢だ。

 穏やかな休日、俺と月上さんと月上さんの子どもと、3人で公園にいる。

 雲一つない青空の下に、青々とした草原が広がっている。そこで俺達はレジャーシートを広げて、月上さんが作ったお弁当を食べていた。

 籐で作られた茶色いピクニックバスケット。そこから取り出したおにぎりや果物は何の変哲もないものであるはずなのに、不思議と特別なものに見えてくる。

 ピクニックバスケットの上に並べられたお弁当を3人で分けながら食べる。そこにあるのは、至極平和で当たり前の日常に見えた。

 それはピクニックバスケットが持つ魅力によるものか、それとも晴天の下で心地の良い風を浴びながら食事をしているためか、決して手に入ることのない月上さんが隣で笑っているせいか。その全てかもしれない。

 月上さんの子どもが靴を履いて走り出す。俺の方に振り返って、「煌、あっちで遊ぼう」と言っている。

 そこは「パパ」ではないのだな、と夢だとわかっているからそんなことを思う。

 当然だ。俺はどう足掻いても月上さんの子どものパパにはなれやしない。そして、月上さんの夫にもなれやしない。

 なりたいとすら、思ってはいない。

 月上さんは俺の今までの短い人生の中で一番好きな人で、子どもという存在も苦手でも嫌いでもない。だからせめて妄想の中だけでは、月上さんの夫として、子どものパパとして生きる願望を抱いてもいいはずなのに。

 どうしてこんなにも溢れる思いがここにあるのに、この人と家族になりたいと思えないのだろう。

 先日の飲み会で星野さんと話したことを思い出す。

 自分の中にあるものは、衝動的で短絡的な感情。

 俺はただ、月上さんと一夜を共にしたいだけなのか。その先輩面をして余裕そうにこちらを翻弄する彼女の乱れ喘ぐ姿を見たいだけなのか。

 そしてそのまま俺の子どもを妊娠してくれれば良いと思う気持ちは、きっと愛ではなく独占欲なのだろう。

 俺を呼ぶ月上さんの子どもの手を握ろうとする。けれど何故か握れなくて、俺の手は空中を掴む。俺の方に差し伸ばされていたはずの小さな手は、今見えていた夢とともに消えていく。

 目を覚ます。朝日が俺の眠るベッドを照らして、爽やかさよりも暑苦しさを感じる。

 せっかく夢に月上さんが出てきたのに、月上さんと全然話すことができなかったな、とそんなことをぼんやりと思う。

 月上さんは夢の中でも月上さんだった。俺と自分の在るべき距離感を理解している。誰も見ていないからと言って、隠れて手を握ってくれやしない。指を絡ませて、軽いキスもしてはくれない。

 自分自身でさえ着地点がわからないこの感情に息苦しさが湧き上がってくる。

 いっそのこと一度月上さんと寝てしまえば、もう全てが幻想だったのだと目覚めることができるのではないかと、そんな淡い期待を抱く。

 手に入らないから欲しくなるだけだ。手に入ってしまえば、こんなものだったのかと必死になっていた自分がくだらなく感じるに違いない。

 こんな感情は知らない。抱いたこともない。だからもう、さっさと解放されたい。

 そんな強い思いが、どこまでも泥沼へと俺を引きずり下ろしていく。

「月上さん、俺と寝てみますか」

 月上さんの揺らぐ視線が俺を見つめている。その上目遣いが、どうしようもないくらい俺の欲情を搔き立てる。

 けれど同時に後悔するのだ。

 決して進んではいけない道を進み始めてしまったのだと。

 - 儚く消えゆく幻想とピクニックバスケット - 終


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

館長の傘花と申します。

ピクニックバスケットにお弁当を入れてピクニックって夢が溢れてますよね!!

そう思うのは私だけですか?笑

ピクニックバスケットも色々な種類がありますが、上側が平べったくて物が置けるタイプのものがやはり便利だなと思います。

どんなタイプのものを探してもお値段がかかってしまうのがネックですが…

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