堕落した日常とココット

短編小説
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- 堕落した日常とココット -

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 カシャンッカシャンッカシャンッ。

 そんな音がワンルームの部屋に響き渡って、俺は大きなあくびとともに目を覚ます。

 一体今何時だ。そう思ってベッドに突っ伏したままスマートフォンを確認すると、もう夕方を越えて夜を迎えようとしている。

 果たして今日一日何をしていただろうか。

 日付を越えてから帰ってきて、酔っぱらっていたから誰と何をしていたかなんて全く覚えていなくて、気が付いたら黒髪の女が隣で寝ていた。この人誰だったかな、なんて考えていたら「煌くん起きた?」って、その女も起きてきて、その声があまりに「あの人」に似ていて、自分でも驚くほど理性が吹っ飛んでいた。

 だから多分、俺は今日一日ずっと寝ていたのだと思う。動的にも、静的にも。

 こんなにもベッドから動かなかったのは久々かも知れない。最近は、休みの日でも1回は外に出るようにしていたのだ。

 太陽の光を浴びないと鬱になっちゃうよ、なんて、そんな声が聞こえてきそうだから。

 カシャンッカシャンッカシャンッ。

 もう一度そんな音がして、俺はキッチンの方へと目をやる。

 そこにいるのは黒髪の女、ではなかった。

「澪、何してんの」

 2ヶ月ぶりくらいに見た姉の後姿がそこにはあった。

 不満げに手を止めた澪がゆっくりこちらへ振り返る。

「おばあちゃんの施設の件、話し合うから夕方行くって言ったよね」

「…あぁー…」

「忘れてたでしょ」

「いやー…忘れてない…忘れてなかったよ」

「じゃあせめて服着た状態で待ってて欲しかったんだけど」

 大きな欠伸をして、俺はベッドから立ち上がる。それに負けないくらい大きな溜息をした澪は、俺から目を逸らして再び泡だて器を手にする。

「何それ。何作ってんの」

「茶碗蒸し。お母さんの作ってたやつ、あんた好きだったでしょ」

「よく覚えてんね」

「いいからさっさと着替えろ。もう少しで夕飯できるから」

 着替えろと言われても、この乱れ切った布団からパンツを探し出すのはあまりに面倒臭い。

 呆然とベッドを見つめた末に、足元に落ちていたスウェットだけを履いて、ひとまずトイレに向かう。

 便座に座ってひとしきりゲームアプリのログインボーナスをもらって、適当にパズルゲームをしてトイレを出る。

 そうして戻る頃には、ダイニングテーブルの上には久々に食べる手料理が並べられていた。

「あんたさ、鍵くらいは閉めて寝なさいよ。物騒でしょ」

 茶碗にご飯を盛りながら澪がそんなことを言う。

 家の鍵を開けっ放しにしていた記憶はないのだが、おそらくどこの誰ともわからない黒髪の女がここから出ていった時に、開けっ放しになってしまったのだろう。

 勿論そんなことを説明するのは面倒で、適当な返事だけを返す。

 椅子に座る。ついでに背もたれに掛かっていたシャツを見つけたので着ておく。

 ご飯に味噌汁、お新香に煮物、そして最後に蓋がついたココットが食卓に並ぶ。

 円柱型で少し高さのある、白い陶器のココットだ。

「何これ。プリン?」

「茶碗蒸しっつってんだろ」

「へぇ。茶碗蒸しって、もっとこう、ザ和食、みたいな模様のイメージ」

「お洒落でしょ?今日友達と買い物してたら見つけてね。もう一目惚れ」

「そうだね。お洒落だね」

「あげないけど」

「いらないよ」

 いらないけれど、見ているだけで少しだけ穏やかな気分になる。

 あぁ、こういうの、あの人好きそうだな。なんて、そんな馬鹿げた妄想が頭を過るから。

 -堕落した日常とココット- 終


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

館長の傘花と申します。

本作に登場したココットは、実際に私が使用しているものをモチーフにしています。

茶碗蒸し、と聞くと、器には波が連続した和風な模様がついているものを想像しやすいかと思います。

本商品は和風にも洋風にも使える蓋付きのココットです。

プリンなどのデザートは勿論、ちょっとしたスープ入れや果物入れとしても使えるため、見た目がスマートでシンプルだからこそ、広い用途にお使いいただけます。

食洗機もご使用いただけます。

(茶碗蒸しとして使う場合は要予洗い)

ご興味がある方は是非こちらのリンクを覗いてみてくださいね。

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