そしてまた絶望という名の快楽に堕ちていく

短編小説
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- そしてまた絶望という名の快楽に堕ちていく -

 激しい吐息が重なる。

 決して手の届かい場所に最高で最低な快楽があるのだと気付いているから、どれほど求めても満足に達することなどできない。

 やはり見た目より声だ。見た目が似ているより声が似ている方が、どうしようもないくらい欲情を煽る。

 だから、もう何度目かわからない絶頂を迎えようとしている名前も思い出せない女の口を、俺は無理矢理塞ぐ。

 お前の声は聞きたくない。お前のその甲高くて汚い喘ぎ声じゃ、何の代わりにもならない。

『月上さんって、旦那さんのどこが好きで結婚したんですか?』

 そんなことを聞いたのは、多分まだそんなにあの人への好意を自覚していなかった時だと思う。

 俺にも一応特定の彼女がいて、恋愛のようなものをしていた時の話だ。

『何。唐突に』

『いや、俺、あんまり恋愛が長く続かないんですよね。結婚自体は興味あるんだけど、何かすぐ飽きちゃうというか』

『ずっとドキドキときめいてたいの?無理でしょ』

『そういうわけじゃないと思うんですけど…なんか違うなぁって思っちゃうっていうか』

 息のできないことへの興奮も相まってか、女がこれまでで一番激しい絶頂を迎える。

 それでもさすがに苦しくなかったのだろう。俺の手を無理矢理引き剥がして、女は肩で大きく呼吸をする。

 そんな女の様子が心底鬱陶しいなと思う。だから、息を整える暇も与えずに、無理矢理女の股の間に入っていく。

『倦怠期なの?彼女と』

『まぁそんな感じですね。何か、こっちが仕事で忙しい時に会いたいとか言われると、なんだかなぁって』

『会いに来てって言われるの?それとも会いに行くって言ってくれるの?』

『向こうが来てはくれますけど』

『じゃあ良いじゃん。会いに行くのは大変だけど』

『いやでもなんだかなぁ。会いに来られたら来られたでちゃんと送ってあげないとだし。あんまり遅い時間なら、泊まる?って話になるし』

『彼女のテンション的にはただ会えればオッケーなの?それともふかーく愛し合いたいの?』

『ふかーく愛し合いたいみたいですね』

『それは…残業して疲れて帰ってきた日はキツいね。彼女さんも、その辺理解してくれると良いのにね』

『そうなんですよねー』

 正直あの頃は本当にただの飽き性だったのだと思う。何が好きで何が恋なのか、真面目に考えようともしていなかった。

 それは、今も一緒か。

 けれどあの時と圧倒的に違うのは、俺はあの人が好きなのだと自覚していて、その恋心にいつまで経っても諦めがつかないことだ。

『まぁだから、色々選択肢があった末に月上さんが旦那さんを選んだ理由に、俺の足りないところがあるのかなって』

 月上さんが長く茶色い髪をさらりと後ろに払って、困ったように眉をひそめる。

 そんなあの人の顔が目の前で喘ぐ女と重なって、恐ろしい妄想と錯覚が俺の欲情を支配する。

 やっぱり、見た目も大事だ。声だけでは意味がない。

『色々選択肢があったって言うか、選択をそもそもしなかったというか…』

 月上さんが気まずそうに指先で頬を掻く。

『私、初めて付き合った人とそのまま結婚したんだよね。だから、旦那以外を知らないっていうか』

『マジっすか。月上さん、他の男に言い寄られても旦那さん一筋だったってことですか。やばっ』

『私、そんなに言い寄られるように見える?ありがとう』

 照れくさそうに月上さんが笑う。

 ただその時は、純粋な人なんだなと思った。純粋で誠実で真面目な人。

 そして今も家族を裏切らずにいるあの人は、変わらず誠実な人なのだ。

『まぁ、あれじゃない?宙原さんは、もうちょっと大人の余裕がある人の方がいいんじゃない?』

『年上?年上かぁ。そう言えば付き合ったことないかも』

『別に年上じゃなくてもいいけど、精神的にゆとりがある感じの人とか』

『月上さんみたいな人ってこと?』

『そうそう。私みたいな人』

 それに比べて俺はどうだ。果てしなく不誠実で、不真面目で、純粋な恋心など抱けない。

 こんなにも沼底に落ちていく自分を制御することもできない。

 月上さん。俺は貴方を抱きたいのだ。

 どうしようもないくらいに。

 自分のしていることがどれほど浅はかなのだと、わかっていたとしても。

 - そしてまた絶望という名の快楽に堕ちていく - 終


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

館長の傘花と申します。

ただただエロパートが書きたかっただけです。

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